教室の生徒さんで、両手で弾いているといつも同じところで止まり、「はじめまして」みたいな感じで楽譜を見て、その音を「ド」から数えて読んで(ええと、ここだったからしら?よいしょ)という具合に弾く子がいる。
曲の途中結構な頻度でそんな感じで止まるので、流れなんてあったもんじゃないのである。
両手の練習を始めたばかりだったらそんな状況も納得ができる。
でもそれが1ヶ月と続く。
ええっと・・・どうしてかな!?毎回ずっこけちゃうのである。
頭の処理速度が追いついていないというのがパッと見の印象だ。
おっとりした性格もあるのだろうけれど、「弾けないところを弾けるまで繰り返すぞ!」と言うような気合いは感じられない。「何度やっても弾けない!」というもがきが感じられない。
そしてもちろん圧倒的に練習量は足りないような気もする。
だからといって、「練習しろ」「気合を入れろ」と言うだけでは無能な先生のお手本のようだ。
自分自身は「気合いと練習量」で乗り越えてきたその過程には、どんな障壁があったのかゆっくり考えてみる。
<生徒さんの症状>
・片手ではゆっくりだが概ねスラスラと弾くことができる。
・両手で弾く時に、音が変わるところ、曲が展開していくところ、和声が変わるようなところで、毎回音を読むために止まる。
・見ている印象としては「なぜか弾けない・・・」と感じている。
・音符を読むことはあまり得意ではないが、全くできなくはない。
・リズムは音の高さを読むよりは得意。
・本人が好きな曲を選んでいるので、曲は理解している。
基本の練習を振り返り、どこに問題が潜んでいるのか探ってみる。
ピアノの練習は、大まかにいうと
片手練習する→両手練習する→仕上げる
という流れになる。
(基本的にはいきなり両手練習推奨派だけど、場合によって片手練習は必要。それはまた別の機会に・・・)
片手練習をする目的は、両手で別々の役割を果たすピアノの演奏で、それぞれの役割を理解するため。まずは片手の音楽を理解するためだ。
片手練習の過程には次のことが含まれる
- 音符をしっかり読む・・・これから自分が紐解こうとする音楽の地図だから、いくら曲を知っているからと言っても、適当に読んでいてはゴールにたどり着けない。
- 旋律を歌って弾ける・・・音感が弱い場合、指の動きと旋律の音が繋がりづらく、片手が弾けたと言っても指の動きを覚えただけで、音の感覚が繋がっていないことがある。指の動きができただけではなく、音として音楽が体に馴染ませるために歌と連動させる。
- メトロノームを使って弾くことができる・・・音楽を動かしている心臓とも言うべき「拍」を揺るがずにメロディを弾くことができる。
- 「1と2と3と4と」言いながら弾くことができる・・・メトロノームに頼らずに自分自身で音楽の心臓を動かすことができる。
器用な人はただ繰り返し練習しているうちにできるようになっていることが多い。
不器用(音感が鋭くない)場合は、1つずつ積み重ねていく必要がある。
生徒さんに足りないのは、1、3、4番。
音感は比較的よく、耳コピで弾けるような部分もあり、楽譜を読まずに鳴らせてしまう。
両手にした時には耳コピ頼りでは限界になり、そこで改めて楽譜を読み始めて、ええっと・・・となっているようだ。
耳コピ状態であっても片手が何となく弾けているので両手に進んでしまったが、そこが1つ見えない壁だったのか・・・。
曖昧な耳コピなので、リズムも曖昧で、メトロノーム合わせると正確ではない。
そのために、自分で拍を取りながらというのはさらに難しい。
片手の練習でまだやるべきことがある。
さて、この片手が完成したとして、いざ両手にする。
両手で弾くということは、脳が指揮者の役割をして、別々の楽器の音楽(左右の手)を融合させて1つの音楽にしていくことだ。
左右どちらも偏ることなく、意識を向ける必要がある。
両手で弾く練習には次のことが含まれる、
- 楽譜をたてに見る・・・左右両方の楽譜を同時に読み進めていく練習
- 両手の音(音楽)を同時に聴く・・・片方ずつではなく、同時に音(音楽)を鳴らし聴き進めていく練習
生徒さんの場合、リズム譜を読むことは得意で問題がない。
でも音の高さを見ることが苦手なので、片手の楽譜でも難しかったのが、大譜表になりさらに難しくなる。ほとんど耳コピで弾いていたので、両手で弾く時に「はじめまして」状態で止まってしまう。
両手の音(音楽)を同時に進めることができていないので、毎回止まってしまう。
これらのための練習は、いろんなパターンで取り組むことができる。
- 両手でリズムを叩く・・楽譜をたてに見る練習
- 片手を弾きながら、反対の手は膝でリズムを叩く・・・楽譜を縦に見ながら、1つは音楽を、1つはリズムのみを意識する練習
- 片手を弾きながら、反対の手の音を歌う・・・楽譜を縦に見ながら、2つのメロディを一人で処理する耳と体と脳を作る練習
片手の楽譜をしっかり読んでメトロノームの練習をもう一度やることと、
片手を弾きながら、反対の手のリズムを叩く、歌うという練習を取り入れよう。
右手、左手で別々の役割を果たすピアノだけれど、そのことをするための準備ができていなかった。
1つずつ段階を踏んで進んでいこう。
そして、この生徒さんの場合、自分の許容の練習量が決められているようで、そこを超えるような無理なことは絶対にしない。ある意味どっしりとした確固たる揺るぎない自分がある。
弾けないからといってその範囲を超えるようなことは決してしないのだ。
逆にいうと、その適切な量の練習は必ずする。
その範囲に適切な量の、適切な練習方法を与えることができれば、いつか必ず弾けるようになる!という道が見えてきた。