バッハ「インベンションとシンフォニア」のレッスンどうしよ!?【主要出版社調査編】
バッハ のインベンションとシンフォニアのレッスンをすることが増えたので改めて勉強を始めようと思う。
インベンションとシンフォニアといえば、ピアノを習っていると必ず通る道。
私がこの曲集をはじめた時は、「なんて譜読みが難しいんだ!!」というのが最初の印象だった。
右手も左手も自由に動かなければならず、それまで弾いた曲はほとんどが右手が主役、左手伴奏だったので、縦横無尽に動く左手はとても新鮮だった。
譜読みの難しさを乗り越えて、両手で弾く時の気持ち良さは格別。
自分の手と手が別の人格を持って会話してるみたいで面白かった。
別々の人格を持った右手と左手が、時々寄り添い、時々離れ、全体として絶妙な響きを作っていくところがたまらなかった。
弾けるようになると、なんども繰り返し弾きたい気持ち良さがある。
バロック音楽への入り口、ピアノレッスンではクラシック音楽の奥深さの入り口とも言える「インベンションとシンフォニア」をどのように扱っていったら良いのか。
まずはたくさんある出版社から何を選ぶのか?
出版社による違いは?
情報収集から。
これまでのピアノレッスンや授業で「主要なもの」と感じられたものから。
目次
全音楽譜出版
楽譜の選択肢としては、まず全音出版のものがお手頃で手に取りやすい。
バッハ自身は指番号を楽譜に記載することはなかったので、多くの楽譜についている指番号は編集・校訂者が研究のうえ加えている。
全音出版の校訂は市田儀一郎。バッハのクラヴィーア作品の研究で知られている。
解説書でも有名で、図書館で音楽の棚で必ず見かけるこちら著者。
出版の趣旨として、以下のように記載している。
(前略)「原典版」楽譜の利用に当たっては、ただ良い教師と探究心旺盛な学習者にとっては価値あるものの、広く浸透すべき教材としての利用価値からいえば、なおまだ十分にそれが果たされていないのが現状ではなかろうか。
これら種々の原典版楽譜のみによる困難や弊害を少しでも緩和し、もっとバッハに親しくアプローチし、それでいてより適正な解釈に到達できるより良い「実用版」を世に送り出すことが私の念願であった。(市田儀一郎・1987年・p.15)
つまり、原典版(可能な限り作曲家の意図に忠実に再現することを目的とした出版)には、指番号、スラー、スタッカート、強弱記号などが書かれておらず、「経験豊かで造詣豊かな専門家」でなければ、正しく利用するのは難しい。
そこで、より使いやすいものを出版した、とのこと。
また、後述するベーレンライター社の原典版を底本としている。
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春秋社出版
同じく日本人の校訂版としては、井口基成による春秋社出版のものがある。
井口基成は多くの校訂楽譜を残している。
ピアニストであり多くの弟子がいたそうだが、弟子の一人である田中正史の著書によると、暴力暴言のあるとても怖い先生だったようだ。
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音楽之友社
作曲家・ピアニストの野平一郎による解説と運指。
装飾音についての選択が豊富に掲載されているのが特徴。
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ヘンレ社
ヘンレ社は1948年創業のバロック以降の原典版を出版している。
こちらからは指番号付きと、指番号なしの2種類出版されている。
↓指番号付き↓
バッハ, J.S: インヴェンションとシンフォニア(二声と三声のインヴェンション) BWV 772-801/シェイデラー編/シュナイト 運指/原典版/ヘンレ社/ピアノ・ソロ
- 発売日: 2015/07/03
- メディア: 楽譜
↓指番号なし↓
バッハ, J.S: インヴェンションとシンフォニア(二声と三声のインヴェンション) BWV 772-801(紙装)/シェイデラー編/原典版/運指なし/ヘンレ社/ピアノ・ソロ
- 発売日: 2015/07/03
- メディア: 楽譜
原典版については↓ヘンレ社のホームページに詳しく書かれている。
「作曲家の意図に沿った楽譜を音楽家に提供することです。改変されていない、つまり校訂者や出版社によって変更されていない楽譜です」とのこと。
ウルリッヒ・シェイデラーというドイツの音楽学者により編集されている。
運指はピアニストのミヒャエル・シュナイトによるもの。
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ベーレンライター社
1927年創業のドイツの出版社。
バッハ全集を出版していることでも有名。
こちらからも、指番号付きと指番号なしの2種類がある。
編集はゲオルグ・フォン・ダデルセン。ドイツの音楽学者で、バッハのスペシャリスト。
指番号はピアニストでピアノ教育者のレナーテ・クレッチマー・フィッシャーによるもの。
↓指番号付き↓
↓こちらは指番号付きで日本語解説付き↓
↓指番号なし↓
バッハ, J. S. : インヴェンションとシンフォニア(二声と三声のインヴェンション) BWV 772-801/新バッハ全集版/ベーレンライター社/ピアノ・ソロ
- 発売日: 2016/11/04
- メディア: 楽譜
ウィーン原典版
1972年にショット社とユニバーサル・エディションによって設立された。
1973年より音楽之友社が日本語版の出版を続けている。
こちらも2種類出版されている。
↓「装飾音について」「形式原理について」がついているもの↓
「装飾法について」が省略されているのも↓
主要なものでもこれだけ多くの楽譜が出版されている。
どの楽譜を使うかは、導入の教則本と同じように「どんなレッスンをしたいか」によって決めるしかなさそうだ。
レッスンでどの楽譜を使うにしても、その背景を生徒さんと共有する必要がある。
バッハ自身は運指やアーティキュレーションをほとんど記載していないこと。
編集者がどんな人物か。
出版社がどんなところか。
それによって、楽譜への信頼感が多角的になると思う。
楽譜をどれだけ深く読み込むことができているかということがピアノ演奏に大きく影響をするが、その楽譜を盲目的に読み込むのではなく、多くの視点の1つなのだと捉えながら取り組むことが重要になると思う。