ピアノレッスンで昔からよく使われている有名なピアノテクニック教本に「ハノンピアノ教本」がある。
「ハノンピアノ教本」は3部に分かれていて、特に有名なのは第一部の1曲の中で同じ音型をひたすら繰り返し上下する練習と、第二部の音階とアルペジオだろう。
この第一部と第二部は抜粋して「子どものハノン」というタイトルで様々な出版社から出ている。
この通称ハノンについて。
私は複雑な気持ちでいる。
私はハノンが嫌いじゃない。
無駄な曲を弾いている時間などない!と先日思ったばかりだけれど、この、曲とも言えないようなハノンの音型を弾くことが単純に楽しい。
基本的に手を動かすことが好きなのだ。
裁縫も編み物も好きだし、みじん切りも塗り絵も好き。
黙々と作業を繰り返すことが全く苦にならないし、むしろ没頭できる時間が楽しくもある。
ハノンはそれに似ている面白さがある。
没頭できる手作業であることに加えて、音が形を作って上がったり下がったりするのだからさらに面白い。
それにテクニックに行き詰まった学生時代、ハノンを毎日1冊全曲弾くというのを続けて一段階レベルアップした手応えがあった。
困った時にハノンは頼りになる。
私の「ハノン」への気持ちは、自分の手作業大好きな性格と、困ったときに助けられたという状況からくるのだが、自分の音楽教室の全生徒さんにお勧めするかと言われれば、半信半疑だった。
「ハノンはつまらない」という通説があるからぐらりと揺れてしまう。
ピアノを嫌いにならないようにと慎重にこまを進めているところで、こんな通説があるものを取り入れるのは勇気がいる。
「ハノンが好きなんです」というのは大きな声で言えない。何だか変な人みたいだ。
それに、これまでの自分が生徒さんとともにやってきたピアノレッスンを通して考えても、曲にもならないようなものを弾いている時間はないし、もっと楽しい曲をたくさん弾いて楽しい時間を過ごそうよ!という方が筋が通っている。
ところが先日、何も知らないのんきな私の母が、孫(私の娘)に「ハノンやったら〜?」と楽譜なしでハノンを教え始めた。
母はピアノを子どもの頃に数年習った程度で、今はほとんど弾かない。60年以上前の記憶で、ピアノといえばハノンでしょ!という具合に娘に提案したのだろう。
娘はどちらかといえばポツポツとピアノを弾くタイプで、あまり音が多いと拒絶してしまうのではないかと、ハノンとは遠いタイプだと思っていた。
母の提案をヒヤヒヤしながら見守っていたけれど、娘は予想外に楽しんで何度も繰り返し弾いていた。
(え!楽しいの!拒絶しないの!)
見守りながらびっくり。
そうか。そういえば、私と娘はピアノのタイプは似ていないけれど、手作業が好きなところは共通している。
それに、これを弾くことでレベルアップするんだということがワクワクするようだった。
生徒さんにも、拒絶されるんじゃないかと半信半疑でと入り入れていた「ハノン」だけど、振り返れば意外と拒否している子は少ない。
結構、なんだかんだ、楽しんでいるように見える。
「レベルアップ」という言葉に目を輝かせたり、おはじきやレゴに没頭できるような思春期前の子どもの方が比較的前向きに取り組んているように感じる。
「つまらない」という通説があるからといって一概に排除できない。
ピアノとの向き合い方は自由なので、このような向き合い方も一つの上達方法なのだろう。
手作業が嫌いな人にとっては苦痛だろうけど。
そう思うと改めて全員に最適なピアノ学習法はない。
そういうところがこの賛否両論あるテクニック教本が廃れずに長く支持されているところなのだろう。
子ども用に抜粋されたもの↓